管理人がダメと言っているから -- 目に見えない正義

とあるマンションに引っ越してきたAのお話。その引っ越したマンションも例に漏れず様々な規則があったのですが、そこでは“管理人”のもとでその規則を破ることへは厳しく対処されていました。例えば、ゴミの分別が徹底していなかった場合は捨てたゴミが自分の家の前に戻されていたり、ちょっとでも騒ぐとすぐに誰かが抗議にやってきたりと。

不思議なことに、誰も“管理人”の姿を見たことのある人はいませんでした。しかし、苦情を言いに来る隣人は必ず口を揃えてこう言います。「管理人に頼まれて言っているのだ」と。

そんなマンションへ引越したAですが、こういった度重る処遇に徐々に不満をつのらせていきます。そして同時にある疑問も大きくなってきました。「“管理人”は一体誰なのだろう?」

そんなある日、仕事が終わり家に帰ってみるとこっそり飼っていたインコが“処分”されていました。これに怒り狂ったAは、マンションの住民を集めて問い正します。「こっそり飼ったのは悪かった。でも殺すことはないじゃないか!一体誰がやったのか?」と。その問いに他の住人は口を揃えて答えます。「“管理人”が」と。

怒りに我を忘れたAは、いつもいつも自分に対してひどい処遇を続けてきたある隣人に詰め寄り、「お前か!お前が“管理人”なんだな!」と叫び、その隣人を殺してしまいました。そして、「今、ここで“管理人”は死んだ!もう“管理人”なんて存在いないんだ!」と叫んで家に戻りました。Aは、これでやっと平和に暮らせると、心からそう思いました。

数日後、隣に新たな住人が引っ越してきました。しかし、その住人は非常に騒がしかったため、ある日、Aはその住人に対して厳重に注意しました。その住人が「騒がしくしたのは悪かったがそこまでひどい事を言わなくてもいいじゃないか?一体、何の権利があってそんなひどいことを言うのだ」と尋ねるとAはこう言いました。

“管理人”に頼まれて言っているのだよ

昨日のエントリを書いていて、ふと思い出した話。何かのドラマの中での話です。もう随分昔の話なので、詳細は少し違うかもしれませんが大筋はこんな感じだったと思います。自分の「正義」に何らかの保証が付くと、人は得てして凶暴(aggressive)になってしまいます。所詮はフィクションなのでここまで極端なことにはならないかもしれませんが、何かを考えさせられる物語でした。