「政治に文句を言う権利」とは何か?

選挙です.Web 上では喧嘩が激化しており,普段にも増して殺伐とした雰囲気ですが,(投票する/しないも含めて)それが自分でそれなりに考えた結果であるならばそれで良いんじゃないかなと思います.

さて.選挙の時期になると「投票には行きません」みたいな記事も注目を集めて,風向きが悪いと炎上したりもする訳ですが,こう言った記事への批判として「投票に行かない奴は政治に文句を言う権利はない」と言うものをしばしばと見かけます.この批判に関して,そもそも「政治に文句を言う権利」とは一体何者なのだろうと言う疑問がふと思い浮かんだので,今回はこれについて考えてみます.

「自由」と「権利」の差異

「権利」に似た言葉として「自由」があります.しかし,「自由」と「権利」は(自由・権利のように)同時に列挙されたりする事も多く,それらの違いがよく分かりません.そこで,本題に入る前にまず,適当な例を見ながら「自由」と「権利」の違いについて考えてみようと思います.

  • 第18条 奴隷的拘束及び苦役からの自由
  • 第19条 思想及び良心の自由
  • 第20条 信教の自由
  • 第21条 集会・結社・表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密
  • 第22条 住居・移転及び職業選択の自由、外国移住及び国籍離脱の自由
  • 第23条 学問の自由
  • 第26条 教育を受ける権利、義務教育
  • 第27条 勤労の権利及び義務、勤労条件の基準、児童酷使の禁止
  • 32条 裁判を受ける権利
  • 第37条 刑事被告人の権利
日本国憲法第3章 - Wikipedia

日本国憲法(の第 3 章)から「自由」や「権利」の付いているものを抜き出してみました.これを見ていると,「自由」と「権利」の使い分けが何となく分かってきました.

「自由」と言う言葉は,ある行動が自分一人で完結する場合に用いられるようです.すなわち,自分がそれを実行したいと思えば,物理的には,すぐさま実行に移す事ができるような類のものです.

これに対して,「権利」と言う言葉は,(自分がそれを実行したいと思っても)自分だけではどうしようもないようなものに対して使われるようです.例えば,「教育を受けたい」と思ったとしても教育してくれる人が誰もいなければどうしようもないといった感じで.もう少し言うと,「権利」とは相手に何かを強制させるような「義務」が生じるものに対して使われるようです.「権利」と「義務」は表裏一体とよく言われるのは,この辺りに起因するのではと思います.

ここで,「自由」はやろうと思えば(物理的には)すぐに実行に移すことができるはずなのに,なぜわざわざ「保障する」と言う形で法律に記載するのかと言う疑問がわきます.これは,かつては法律に記載されているような行為を行う事が(その時の為政者によって)妨害されてきた(ことがある)と言う歴史的事実があるためです.こう考えると,「自由」とは「(公的な)権力から干渉されない権利」と言い換えることができそうです.

政治に文句を言う自由

本題です.「政治に文句を言う」と言う行為は,(物理的には)やろうと思えば誰にでもできる行為です.そのため,個人的には「政治に文句を言う権利」よりは「政治に文句を言う自由」の方が正しいと感じます.

そして,投票に行かなかった人達に「政治に文句を言う自由」は存在するのかと言う命題ですが,幸運にも今の日本では,投票に行かなかった人達が政治に文句を言ったらある日突然逮捕されてしまったみたいな事は(多分)起こらないので,投票をしたかどうかに関わらず「政治に文句を言う自由」は存在すると考えられます.

政治に文句を言う権利

蛇足気味ですが,ここで「政治に文句を言う」行為を(「自由」ではなく)「権利」としてもう少し考えてみます.「政治に文句を言う自由」は今の日本では全ての国民に等しく存在すると思いますが,この「文句」が実際に政治家(為政者)の耳に届いているかと言われるとかなり怪しいです.居酒屋で勢いでしゃべっている愚痴も「政治への文句」と見なすことができますが,これらはほとんどの場合無視されます.

そのため,「政治に文句を言う」行為を「権利」として捉えるならば,文句が政治家に届くようなシステムが国民に(ある程度)提供されている必要があります.これに関しては,例えば,政策に対するパブリックコメントなどは「文句が政治家に届くようなシステム」に当たると考えられます.したがって,「政治に文句を言う権利」とは「パブリックコメントのようなシステムを利用する事ができる権利」と捉えることができます.

そして,これに関しても利用できるかどうかは投票したかどうかに依存しないので,上記のようなものを「政治に文句を言う権利」と定義するならば,投票に行かなかった人達にも「政治に文句を言う権利」は存在すると言えます.

結論

現在の日本では,投票に行かない事に対して直接的なペナルティは発生しません.そのため,「投票に行かなかった人達は政治に文句を言う権利(自由)がない」と言う批判は正確ではなく,「投票に行かなかった人達が政治に文句を言ったとしても,その文句が為政者に聞き入られる可能性は(相対的に見て)低い」位になるのかなと思いました.