「ソーシャルは分散,コミュニティは集合」は正しいか?

ソーシャルは個が主体であり他とのリンクで構成される。コミュニティは場が主体であり個の集合によって形成される。ソーシャルは分散、コミュニティは集合。

ソーシャルとコミュニティはまったく別モノだよ。そういう意味でソーシャルメディアとかって言葉はどうもおかしい使われ方が多いと思ってる。

http://ceonews.jp/archives/2009/12/post_418.html

上記の記事を読んでいて,「正しいような,でも何か違うような・・・」と言うモヤモヤが晴れなかったので,今回は「ソーシャルとコミュニティの違い(はあるか?)」について考えてみます.

まず,「コミュニティ」と言う単語に関しては,上記の説明で正しいように思います.

インターネットコミュニティは、WWW等のインターネットのアプリケーションを通じて共通の関心分野、価値観や目的を持った利用者が集まって持続的に相互作用する場であり、提供されるウェブサービスの総称。

インターネットコミュニティ - Wikipedia

これに対して,「ソーシャル」と言う単語に関しては,上記の説明だけでは収まらない,少なくとも「全く別物」と言うほど厳密に区分する事はできないのではないのかなと感じています.例えば,「ソーシャル」サービスとして(現在のところ)最も有名なサービス形態の一つである「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」は以下のように定義されています.

狭義的には、ソーシャル・ネットワーキング・サービスとは人と人とのつながりを促進・サポートする、コミュニティ型の会員制のサービスと定義される。あるいはそういったサービスを提供するWebサイトも含まれる。

ソーシャル・ネットワーキング・サービス - Wikipedia

「他とのリンクで構成される」と言う説明は正しそうですが,狭義的な定義においてさえも「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」と「コミュニティ」は明確には区分する事ができていません.

「ソーシャル」は形容詞に過ぎない

この問題は,「ソーシャル」と言う単語単体では意味を完全に定義する事はできないと言うところに起因します.

kanimaster ソーシャルは形容詞、コミュニティは名詞。

はてなブックマーク - ソーシャルとコミュニティの違い | 近江商人JINBLOG

上記のコメントの通り,「コミュニティ」は名詞,「ソーシャル」は形容詞と言う差があります.この差が何を意味するのかと言うと,「コミュニティ」と言う単語に比べて「ソーシャル」と言う単語は後続する単語の持つ意味に強く依存する,と言う事が挙げられます.

上記の「ソーシャルは個が主体であり他とのリンクで構成される」と言う説明は,mixi を例に考えるとすんなりと理解できるように思います.なぜならば,mixi は「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」だからです.すなわち,「他とのリンクで構成される」と言う性質は「ソーシャル」と言うよりはむしろ「ネットワーキング」の単語の持つ意味に由来します.

こう考えると,上記の記事の筆者が「ソーシャルメディアとかって言葉はどうもおかしい使われ方が多いと思ってる」と言う感想を抱くのは,恐らく,筆者にとっては「ソーシャル = ソーシャル・ネットワーキング」と言う意識だからではないかなと感じました.

分散と集合の性質を併せ持つ「ソーシャル・ブックマーク」

「ソーシャル」サービスにおいても集合の性質を持つ例として,「ソーシャル・ブックマーク」を考えてみます.「ソーシャル・ブックマーク」は集合知を実現するシステムとして期待され,また提供されてきたと言う経緯があります.

Collective Intelligence」は、「集団知」とでも訳すのだろうか。本書の主張は、ひとことでいえば、「適切な状況の下では、人々の集団は、その中で最も優れた個人よりも優れた判断を下すことができる」ということである。適切な条件とは、

  1. 意見の多様性
  2. 各メンバーの独立性
  3. 分散化
  4. 意見集約のための優れたシステム

であり、これらが満たされれば、個々のメンバーが正解を知っていなくても、また合理的では必ずしもなかったとしても、グループのほうがよいという。

H-Yamaguchi.net: The Wisdom of Crowds: Why the Many Are Smarter Than the Few and How Collective Wisdom Shapes Business,Economies, Societies and Nations

集合知」を実現する方法として多くのソーシャル・ブックマーク・サービスは,各ユーザが独立して管理するための「ユーザページ」と,ある記事に対する各ユーザのブックマーク結果を閲覧するための「エントリーページ」と言う 2 種類のページを提供しています.

各ユーザは,割り当てられたページ上で独立して自分のブックマークを管理します.したがって,「人(ユーザ)」と言う観点から見ると確かに,「ソーシャル・ブックマーク」も分散的な性質を有しています.

一方で,「エントリーページ」はある記事に対してどれ位のブックマークが集まっているかとか,場合によってはその記事へのコメント一覧が閲覧できるようになっていたりします.したがって,「記事」と言う観点から見ると「ソーシャル・ブックマーク」は,(ある記事に対する)皆の意見を閲覧する場と言う集合的な性質も併せ持っています.

単語の意味を明確に区分する事は難しい

単語の定義を厳密に行うのは非常に難しい事です.特に,近年 Web 上で叫ばれるようになったソーシャルなんちゃら,と言う言葉にはバズワード的な要因も含まれているため「何となく」で使われる事例も多々存在します.したがって,「ソーシャルなんちゃら」がどのような性質を持つのかを理解,あるいは議論する際には,単語に惑わされずよく吟味する必要があるなぁと思います.