隠語やスラングの役割

http://d.hatena.ne.jp/nofrills/20100427/p1 より.話題が少しずれますが.

昔,友人達とレンタカーで旅行(?)をしたことがあったのですが,この時に車の中で行っていた会話の一つに「ネットワーク用語で話す」と言うものがありました.渋滞に捕まると「また輻輳が発生したよ」,「めんどくせぇな.何個かパケット廃棄されればいいのに」と言ってみたり,目的地までの道筋を聞くときに「○○までのルーティングを教えて」と言ってみたり.この会話は,関係ない人が見れば「気持ち悪い」とか「職業病か」のような感想をきっと持つのだろうと思いますが,話している当人達にとっては非常に楽しいものでした.

「隠語」や「スラング」の役割の一つとして,「俺達/私達だけの秘密を共有している」と言う不思議な連帯感を発生させると言うものがあります.例えば,「サーバ」を「鯖」と表記する事にはほとんど何の意味もないとよく感じますが,それでも「鯖」と言う表記を好んで使いたがる(人達が存在する)のは,そういった連帯感を生み出すからと言う面があるからのように思います.これは,子供達が秘密基地を作りたがる心理と近いでしょうか.

この点から,ある隠語やスラングに対して外部の人達(隠語やスラングを使っている当人達が「外部の人達」と認識する人達)がいくら「気持ち悪い」,「何が面白いか分からない」,「使い方が間違っている」のような意見を述べても,それは使っている当人達への抑止力にはならない事が分かります.むしろ,「理解できない」と言う表明自体が当人達の「秘密を共有している」と言う連帯感を強めてしまうと言う逆効果を与えてしまいかねません.言葉の話ではありませんが,@nikutyせかんど 事故や事件をなんでもデスブログのせいにするのはバカなの!?死ぬの!? などもこれと同様の問題があるように思います.

そう考えると,ある隠語やスラングを廃れさせる一つの方法は「逆に,できるだけ多くの人に広めてしまう」と言うものがあるような気がします.例えば,「キター」のような表記は「電車男」以降,様々なメディアで使用されるようになりましたが,そう言った普及度に反して 2ch などの匿名掲示板上では使用頻度は従来ほど高くなくなりました.これは,その言葉自体への飽きなどの要因もありますが,数多くの人が知ってしまったことによってそのスラング(キター)が持っていた魅力(秘密を共有するという連帯感)が半減してしまったためだろうと思います.

ある言葉に対して,「キモい」などの不快感を表明するのは自由ですし,そう言った疑問を投げかけるのは大切な事だと思います.しかし,表明する際の目的(の一つ)であろう「使用を抑止させる」と言う効果は望めない(逆効果にすらなり得る)だろうと言うのが個人的な感想です.「使用を抑止させる」と言う意図でそう言った不快感を表明させる場合,まず,使用している当人達にどうにかして「俺達/私達の側にいる人間」と言う認識を植えつける必要があります.