所用で、そのうちこう言ったテーマでしゃべる機会が出てきそうなので自分用の資料も兼ねてまとめてみます。
過去に指摘された問題
まず始めに、過去に論争の火種となった問題について 2 点ほど記載します。
無責任なコメント問題
Web 上の読者に関する諸問題で、恐らく最も賛否両論を集める問題だろうと思います。
はてな取締役であるという立場を離れて言う。はてぶのコメントには、バカなものが本当に多すぎる。本を紹介しているだけのエントリーに対して、どうして対象となっている本を読まずに、批判コメントや自分の意見を書く気が起きるのだろう。そこがまったく理解不明だ。
2008-11-09 03:38:35 via web
無責任なコメント問題については、上記の発言、およびこの発言に続く各種論争が代表的なものと思われます。あるいは、ウェブはバカと暇人のもの と言う象徴的なタイトルの書籍が存在しているので、この書籍への言及を追っても良いかもしれません。はてなブックマークのコメント欄については、個人的には、先日見かけた初代開発者の上記の趣旨に近いコメントが印象的です。
背景として……「読者のコメント」と言うものは元来は(Web 2.0 と呼ばれる以前)なかなか公の場所では確認しづらいと言う性質を帯びており、「テキストサイト」と呼ばれていた Web サイトが主流だった時代(2000 年代前半まで)には多くの筆者達が「読者がどう言った感想を抱いたのかをもっと知りたい」と言う悩みを抱えていました(所謂「沈黙のオーディエンス」問題)。
この傾向に変化が見られたのがはてなブックマークのコメント欄実装後で、日本の Web ではこの辺り(2006 年辺り)を契機に、少しずつですが読者のコメントも可視化されるようになってきました(参考:沈黙を破るオーディエンス)。この傾向は Twitter や Facebook が日本の Web で主流になってくるとさらに加速し、現在では話題になると数百〜数千もの反響(コメント)を見られるような状況も決して珍しいものではなくなりました。
こうした傾向には良い面も多々ありましたが、各種 Web サービスが、コメントを残すための技術的・心理的ハードルを下げる事に注視した結果、所謂「無責任なコメント」も数多く生み出す事になりました。コメントに関する論争では、前述したはてなブックマークのコメント欄に関するものの他、Yahoo! ニュースでのコメント欄や Twitter 上でのやり取りに関してもよく取り上げられます。特に、Twitter に関しては「リツイート(公式 RT)」と言う機能が、(通常の呟き以上に)公の場で発言したと言う責任をほとんど感じさせないような構造になっており*1、個人的にも憂慮している部分です。
俺はRTしただけ。@psycho_weirdo: 敬愛するサカモト教授 @skmt09 の東電株購入斡旋tw。本気にして買ってしまった気の毒な方、果たして何人いるのか気がかり。教授が博打で身銭切るなら構わないけれど、他人のゼニ、募金に回るかもしれなかった資金を無駄にしてしまう
— skmtcommmons (@skmt09) 2011, 4月 12
なんでRTした先の内容まで責任をもつ必要があるんですか?@blaec_hwit: 「RTしただけ」言って逃げるなんてひどい。例えRTだとしても発言には責任持って頂きたいです。影響力あると思うから RT @skmt09:俺はRTしただけ @psycho_weirdo:敬愛するサカモ
— skmtcommmons (@skmt09) 2011, 4月 13
コメント問題については、私の主張としては ネットみのもんた 辺りで大体言い尽くしているとも思うのですが、これに加えるとすれば、「コメントは(素朴な正義感に裏打ちされた)『不快』と言う感情ほど表面化、あるいは拡散しやすい」と言う性質についてでしょうか。
「喜び」はもう少し伝播性があった。喜びを表した投稿は、悲しみや嫌悪感の投稿よりは活発な反応が見られた。また、喜びの投稿を目にしたユーザーは、その後自らも明るい投稿をするケースが多かった。
だが、伝播性や影響力が最も大きかったのは、おなじみの「怒り」だった。怒りの投稿は、元の投稿者のネットワークから少なくとも3ホップ(3段階)先まで広がっていく傾向が強く見られた。さらに、怒りの投稿をした人とつながりのあるユーザーも、同じようにいら立ちを感じ、自らも怒りの投稿をして、怒りの輪が広がっていた。
SNSでは怒りの感情が伝播しやすいことが中国の研究で明らかに - CIOニュース:CIO Magazine
時事問題にしても、他人の不祥事等ネガティブな話題の方がより大きな反響を得やすいと言う傾向が見られます。また、「PV を稼ぐための方法」と言った類の記事で「敢えて突っ込みどころを残す」と言うアドバイスをよく見かけますが、これも「読者は不快な感情の方を露出しやすい(それが正義感に裏打ちされているものであれば、なお一層)」と言う性質を利用しているものと思われます*2。
著作権問題(無断転載問題)
Web 上におけるもう一つの大きな問題として「(無断)転載問題」が挙げられます。Web 上では、個人による散発的な無断転載に加えて、古くから現在に至るまで様々な転載システム(問題)が出現し、そして多くは消えていきました。転載問題に関しては、趣味のWebデザイン にて継続的に追われているようなので一通り紹介します。
- Naver ブログと Yahoo! ブログの挑戦(Naver ブログのスクラップ機能)
- Yahoo ブログの転載機能を擁護する
- リブログは仲間同士でやってください(Tumblr に関する言及)
- 再利用するなら文責も負ってほしい(ガジェット通信と Tumblr)
- twitterで横行するカジュアルな著作権侵害
- 暑い。もう嫌だ。(転載を許容する基準について)
現在において「無断転載」で問題になる事例は Tumblr と Naver まとめに関するものが多いでしょうか。最近では Loading site please wait... のような Web サービスも出てきたので、この辺りも問題の輪に入ってくるかもしれません。また、とある初秋のパクツイ狂想曲 にて一つ事例を紹介しましたが、Twitter においては他人の呟きを無断転載する「パクツイ」と呼ばれる行為も問題となっています。
前述した 2 つの Web サービスについては、私のブログを例に取ってみても 部分的な転載は各々の良識の範囲で適当にやって下さい」位の縛りでやっているのでこれ自体を気にしている訳ではありませんが、こう言った転載行為を(転載された当人に確認する訳でもなく)なし崩し的に行なって何となく許容される事が常態化してしまっている現在の Web は、著作権問題等についてもなかなか危うい位置にいる事が分かります。
この問題の難しいところは、多くのユーザも「無断転載」について無縁ではない事が多く、それ故「こっちの無断転載は許容するが、あっちの無断転載は許容しない」と言う状況に陥りやすい事にあります。個人的な経験則としては、Tumblr などは比較的そう言った状況になりやすい媒体かなと言う気がしています(参考:Tumblr問題、Tumblr問題2改)。YouTube 等の各種動画サイトについても同様の事が言えますが、その一方で YouTube やニコニコ動画については運営側が包括契約を結ぶ等して、少しずつですが正常化していこうとする努力も見られます(参考:YouTubeがJASRACと契約 演奏動画、投稿可能に、JASRACとニコニコ動画がついに契約、楽曲の二次利用が可能に)。
近年、表面化してきた問題
ここまでが、これまでに論争となった話題なのですが、現在において「Web 残念論」を語る上で最も大きなものは 2ch まとめブログ等に代表される「倫理観に欠けるアフィリエイト系 Web サイト」の存在だろうと思います。具体的に言うと、「カネのためなら何でもやる層が、Web 上でこれまで残念と言われていた部分を最大限に利用(悪用)し始めたため、残念度が飛躍的に加速した」と言う感じでしょうか。
例えば、これまでのコメント問題については、一言で表すと「ろくに知識も調べる気力もないユーザが、その場の感情と気まぐれで(継続的なコミットをする訳でもなく)適当なコメントを残す」と言うものだったのですが、現在では、この現象単体に加えて「感情に任せて適当なコメントを残すユーザが食いつくような煽り記事を大量に生成して PV を稼いで儲ける」と言うように、この現象を(悪い方に)利用する Web サイト運営者が大量に発生した事による相乗効果で、より深刻な影響を及ぼすようになっています。この類の Web サイトの最大手の一つに 痛いニュース(ノ∀`) があるのですが、「痛いニュース」と言うタイトルが、前述した「コメントは(素朴な正義感に裏打ちされた)『不快』と言う感情ほど表面化、あるいは拡散しやすい」と言う性質を最大限利用すると言う意味で、非常に象徴的なものとなっているように感じられます。
これらの Web サイトにおける大きな問題点の一つとして、「単にコメント(PV)の集まりそうな話題ばかりを偏重してピックアップするだけでなく、よりコメントを集めやすくするために、恣意的な抽出(引用、転載)や場合によっては捏造も厭わない」と言うものがあります。
これがまず2ちゃんねるで引用されたわけですが、とんでもないことに、
日本人 「Hello! My name is 〜」 外国人(何100年以上前の言語使ってんだこいつ・・・)
というタイトルで引用され、私の意図とは全く逆に、「日本人の英語は古い」「使えない」と、セイン氏の本を正しいものとして紹介する内容にされてしまいました。本筋を無視して引用する卑劣な改竄行為と言わざるを得ません。これを最初に引用した人が何者なのか知りませんが、恥という言葉を知らないのでしょうか?
さらに、これがまたもやあっちゃこっちゃのまとめサイトでコピペされ、私が批判したひどい本の内容を拡散することになってしまいました。
…(中略)…
これまた驚くほど多くのサイトでコピペされてしまっていますが、当然どれも最初の改竄した2ちゃんねるスレッドを引用しているので、私の記事と180度逆の趣旨のものになっています。最初に私の記事を改竄して引用した2ちゃんねらーも恥知らずの卑怯者だと思いますが、まとめサイトの人たちも何なのでしょうか。もとの私の記事を確かめることもせず無批判にコピペし、自分のものにしてしまう。自分のブログの内容に責任も何にも持っていない恥知らずの行為としか思えません。なんなの、これ。何でこんなことできるわけ? 恥ずかしくないの? 理解できません。
もしこれらのまとめサイトの管理者がこの記事を見ていらっしゃれば、今すぐ当該記事の削除をお願いします。そして、二度と私のサイトの記事を盗用も引用もしないようにお願いします。
2chとまとめサイトがひどすぎる! 許しがたき恥知らずな盗用&改竄行為について MANGA王国ジパング/ウェブリブログ
上記のように、サイト運営者の意図と正反対の内容のまとめ記事が作成されたとして憤慨している事例もしばしば見られます。この問題については、特に悪質であるとして2ちゃんねるから名指しで転載を禁止された事例(参考:2ch.net/warn.txt)が記憶に新しいですが、程度の差はあれ、多数の類似サイトが同様の問題を秘めています。
転載問題(著作権問題)についても Web 上の「微妙な状態のまま運用が続いている」点を最大限利用した形となっており、「大元の情報源から一部、あるいは全部を転載した2ちゃんねるのスレッド」をさらに転載する形を取る事で、転載の責任問題を有耶無耶にしている節があります*3。転載については、安易な転載を続ける事で DeNA「うちのゲームは高学歴の方は〜」発言の出典を辿った - いぬビーム のように「ソースロンダリング」と揶揄される事例に遭遇する事も珍しくなくなってきました(これは、その他のメディアにも問題がありますが)。また、そもそも転載問題に関する前提知識が乏しいと言う事も多いようで、大元の情報源から警告を受けた際に「該当スレッドの他のレスをたくさん転載すれば問題ないんですね(引用要件を満たしていると言う主張)」と言うような強弁を行う事例も見られました(参考:とある 2ch まとめブログが転載を引用と強弁している事例)。
これらに加えて、旧来から存在するスパム系の記事も増殖・進化を遂げているようです。とある Naver まとめユーザ (curation.jp) の Twitter スパム BOT 育成術 では、Naver まとめで PV (≒金銭)を得るために Twitter でかなり大規模なスパム行為が行われている事例を紹介しましたが、Twitter や Facebook など昨今、多くのユーザが集まる Web サービス上でも(PV や金銭を得るために)様々なスパム行為が出現してきています。
Related Pages
- 沈黙のオーディエンス問題 - Life like a clown
- 沈黙を破るオーディエンス - Life like a clown
- ネットみのもんた - Life like a clown
- コメントに対するネガティブ評価システム - Life like a clown
- はてなブックマークのコメントにモデレーション機能が付いたようです - Life like a clown
- とある初秋のパクツイ狂想曲 - Life like a clown
- とある Naver まとめユーザ (curation.jp) の Twitter スパム BOT 育成術 - Life like a clown
- とある 2ch まとめブログが転載を引用と強弁している事例 - Life like a clown
- Twitter 炎上事件と 2ch まとめブログ - Life like a clown
- 「痛いニュース(ノ∀`)」と「アルファルファモザイク」の違い - Life like a clown