少し前に ザッカーバーグCEO、氷水でびしょぬれに──ALSチャリティーで と言う記事を見かけた事を覚えていたのですが、今週に入ったあたりからこの ALS Ice Bucket Challenge と言うチャリティー運動が日本でもかなり盛り上がっているようです。せっかく盛り上がっている所でこんな事を言うのは、それこそ「氷水を浴びせる」行為かなとも思ったのですが、やっぱり気になったので個人的な意見を述べておきます。
- 概要
- Ice Bucket Challenge とは
- 人々の善意の結果としてのチェーンメール
- 「何となく拒否できない」雰囲気が醸成される危険性
- 今回のような運動に参加する場合
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概要
長くなりそうなので、先に概要だけ箇条書きにしておきます。
- 今回のチャリティー運動全体に関しては、日本 ALS 協会も好意的な立場を取っている ようですので、今回指摘する以上の事をどうこう言うつもりはありません。
- 私自身は、バトン(SNS バトン)と呼ばれるものも含めて「チェーンメール的な性質を帯びたもの」として全て否定的な立場を取っています。今回指摘する点も、これに関連したもので「意義や目的は別問題として、その伝播方法は支持できない」と言うものになります。
- 今回、こう言った運動が広く認知された事により、似たような後追い事例が出現する可能性があります。その際には自ら、騒動の出所や該当する機関(今回の例で言うと、ALS 協会等)がどう言った態度を取っているのかをきちんと確認し、不明な場合には安易に騒動に乗らないようにして欲しいと願っています。
Ice Bucket Challenge とは
Ice Bucket Challenge とは、以下のようなルールを持つイベント全般を指すようです。
Within 24 hours of being challenged, participants are to video record themselves in continuous footage. First, they are to announce their acceptance of the challenge followed by pouring ice into a bucket of water. The bucket is then to be lifted overhead and poured over the participant's head. Then the participant can call out a challenge to other people.
Ice Bucket Challenge - Wikipedia
In one version of the challenge, the participant is expected to donate $10 if they have poured the ice water over their head and donate $100 if they have not. In another version, dumping the ice water over the participant's head is done in lieu of any donation, which has led to some criticisms of the challenge being a form of slacktivism.
Ice Bucket Challengeは、米マサチューセッツ州在住のALS患者、ピート・フレイツ氏が始めた、ソーシャルメディアを使ったチャリティーキャンペーン。指名を受けた人は、バケツの氷水を頭からかぶる動画を24時間以内にFacebookやTwitterなどのSNSで公開し、次の人を指名するか、ALS Association(ALS協会)に100ドル寄付する――というルールだ。
「頭から氷水」動画、日本にも広がり 孫社長や山中教授も 難病患者支援のソーシャル運動 - ITmedia NEWS
今回は、2014 年 7 月中旬頃にある男性が Ice Bucket Challenge の寄付先として ALS Association を選択したのが発端となり、これまでにない大きな運動に発展したようです(参考:http://gqjapan.jp/more/andmore/20140820/ice_bucket_challenge_started)。
この運動で個人的に憂慮している点は「誰かから指名を受けると何かしらの行動を取り、その後、さらに別の誰かを指名する」と言う伝播方法が非常にチェーンメール的であると言う点です。
人々の善意の結果としてのチェーンメール
「チェーンメール」あるいは「不幸の手紙」と呼ばれるものはインターネットが存在しない頃からある問題の一つですが、SNS と呼ばれる Web サービスが普及した頃からさらに多様な形を取るようになってきました。このチェーンメール問題ですが、各人の「善意」が積もり積もった結果として現れたと言う事例も少なくありません。
よく見かける例としては「特定の血液型の血液が不足しているので、献血をお願いする」と言うものでしょうか。これらのチェーンメールは、完全にデマなものから、事実も含まれているが伝播する過程において内容が改ざんされてしまったものまで様々な事例が存在するようです。
2000年5月下旬、「血液型がAB型Rhマイナスの妊婦が手術するので献血に協力してほしい」という善意から発信された電子メールが「チェーンメール」となって爆発的に広まり、献血の申し出や問い合わせが日本医科大多摩永山病院(東京都多摩市)に殺到した。
内容は事実ではあったのだが、改ざんされた内容で、メールが大量に出回ったりしたために、 妊婦が入院している病院に問い合わせが殺到、病院の診療に支障が出る騒ぎとなった。
http://internetmuseum.org/museum/hoax/ab.html
昭和大学病院(東京・品川区)に入院している白血病の子どもに輸血が必要だ、という作り話の「チェーンメール」が携帯電話などに流されていることが分かった。メールは、知人の3歳の子どもが白血病で手術が受けられないため、RHマイナスB型の血液提供者はいないかを呼びかける内容になっている。現在は使われていない連絡先の携帯電話番号が記され、知人に回すように呼びかけている。メールは、2008年2月21日から出回っている模様で、同病院に100件以上の問い合わせが相次いでいるという。
昭和大病院入院の子どもへの輸血呼びかけるチェーンメール流れる : J-CASTニュース
こう言ったチェーンメールを転送する動機の多くは、自らの「善意」によるものであろうと推測されます。少しでも力になれれば……と思いチェーンメールに加担したが、結果として該当機関に想定外の処理(問い合わせへの対応等)が発生し、通常業務に支障を生む事に繋がったとして問題化する事例が数多く見られます。
今回の事例に関しては、日本 ALS 協会も好意的な見解を示しており、業務に大きな支障を与えたような事実は確認されていないようなので、この点はこれまでのチェーンメールの事例とは異なります。しかし、先に紹介したような問題については十分に注意しておく必要があるように感じます。
「ALSアイスバケツチャレンジ」は、ALS患者と患者団体を支援する募金イベントです。アメリカから始まり他の国を経て、先週末頃から日本で急激に広がっています。それにより、これまでALSを知らなかった人達から協会へ問合せやご寄付のお申し出を頂いており、心より感謝しております。頂いたご寄付は、ALS患者や家族が安心して療養が続けられる社会のために、大切に使わせて頂きます。
http://www.alsjapan.org/-article-705.html
「何となく拒否できない」雰囲気が醸成される危険性
別の問題点として、この類の「次に実行する相手を指名する」システムの場合、運動の意義・目的や盛り上がり具合によっては、何となく拒否しにくい雰囲気が醸成されて半ば強制的にイベントに付き合わせられる危険性が伴う点が挙げられます。
起業家の堀江貴文氏は自らのブログで、さほどこの運動に興味がないとしながらも、ソーシャルゲームを手掛けるドリコム創業者である内藤裕紀氏から指名を受けたため挑戦に応じると表明した。積極的な賛同がなくても人間関係によって、運動に加わっていく「バイラル」の力を暗示するものといえる。
ノーベル賞の山中教授も、ホリエモンも-- 「バケツで氷水かぶる」運動が日本でも急拡大 [インターネットコム]
この点は日本 ALS 協会も憂慮しているのか、「「アイスバケツチャレンジ」で、冷たい氷水をかぶることや、高額の寄付をすることは強制ではありません。皆様のお気持ちだけで十分ですので、くれぐれも無理はしないようにお願いします。」と言う一文を明記しています。
今回の事例については、一部で好意的に評価されているように「次に実行する相手を指名する」と言うシステムではなく各人が自発的に参加すると言うものであれば、ここまで大きな社会現象になる事はなかっただろうと感じています。しかし、だからこそ、この伝搬性の高さが一歩間違うと「チェーンメール」と言う大きな社会問題として顕在化します。その意味で、今回の成功事例を以て、この手法(指名方式による伝播)を支持・評価する事はできないと言うのが私の現時点での立場です。
今回のような運動に参加する場合
今回のチャリティー運動が好意的に報道された事によって、今後、似たような後追い事例が発生する可能性があります。私自身としては、今回のような(意義や目的云々ではなく)指名性によって伝播していくシステムの場合には原則として無視する方が良いと考えていますが、もし、運動に参加しようと思った時には、運動の出所、および関係機関がどう言った態度を取っているのかを自らきちんと確認するようにして欲しいと願っています。
この際、注意すべき点として、過去の事例からも分かるように 「チェーンメールの真偽を確認するために関係機関に電話をかけたりメールを出したりする」と言う行為自体が通常業務の妨げになる可能性 があります。したがって、そう言った(チェーンメール的な)事象に遭遇した場合は、確認方法は Web ページ等の閲覧に留め、「関係機関が好意的な声明を発表していない限りは無視」と言う態度を取る必要があるのかなと感じます。