開発者として、経営者として、父親として

2021 年も無事に乗り切る事ができました。2020 年は諸事情で振り返り記事をスキップしたので、この記事は 2 年分の振り返り記事となります。この 2 年は、私を取り巻く環境も公私共々大きな変化があり、これまでのように開発者としてのみ見ていた世界が様変わりした年となりました。

開発者として

GitHub Contributions

開発者としては、これまでと大きく変わらない日常を過ごしています。2017 年以降、GitHub の Activity(通称、草)を意識しながら毎日の活動に取り組んでいますが、2019 年 8 月 24 日以降、毎日 1 contribution 以上を継続する事に成功しています。

後述するように、2 年前から経営者としての活動が増えてきており、この影響で Cube シリーズを始めとした種々の開発が止まりかける事が何度もありました。ソフトウェア開発に関しても、継続できている内は苦に感じなかった事が、いったん停止して気持ちが切れてしまうと再始動させるのに大きな気力を要するのだと改めて実感します。そのため、最近は GitHub の Activity を開発者としての自分を駆動させる最後の拠り所として、蜘蛛の糸のように眺めながら、まとまった時間が取れない時でも何か 1 つでも手動で更新できる課題を見つけてコミットし続けています。それが健全なのかどうかは判断の分かれる所でしょうが、個人的には、開発者としての自分を保てているので良いと納得する事にしています。

β 版からの卒業

弊社では Cube シリーズの中で、CubePDFCubePDF UtilityCubePDF PageCubeICE を主要 4 製品と位置付けていますが、2021 年にようやく、これら全てのバージョン表記から β の文字を除去する事に成功しました。

振り返って思う事は、いったん表記した β と言う文字を除去すると言う決定をする事は非常に難しい と言うものでした。当初からロードマップが敷かれている場合を除けば、ソフトウェアのバージョンに β を付記する理由は、不安だから、と言うものが大半だろうと思います。そして、10 年ほど開発を継続した結果、この種の不安が解消される日は永遠に来ないだろう と言う結論となりました。

CubePDF 1.0.0 リリースの際にも記載しましたが、私の開発体制も、テストコードに対してさらに力を入れたり CI (Continuous Integration) 環境を整備したりと、当初よりはかなりマシになってきています。ただ、これらはデグレードやリグレッションと呼ばれる類の不具合を防止する意味合いが強く、未知の不具合に対しては必ずしも機能する訳ではありません。それ故、ソフトウェアの最終的な品質に対する不安を解消するのはなかなか難しいと言うのが率直な感想です。

今後、新たな製品の開発を始める場合、あらかじめ β 卒業のタイミングを決定しない限りは、たとえ不安でも 1.0.0 からスタートする方が良いように感じました。

英語版の整備

英語版の整備

開発面でもう一つ大きなトピックは、英語版の対応 に注力し始めた事です。英語版の対応に関しては、これまでアプリケーション本体の GUI 部分とインストーラーに限られていました。そのため、リンクとして示している Web ドキュメント等は日本語のままと言う中途半端な状態が続いており、非日本語圏に対してアピールするには不十分な状態でした。

これまで英語版の対応にそこまで前向きでなかった理由は、収入源の確保ができていないからと言うものでした。この課題は、現時点でも完全に解決した訳ではないのですが、非日本語圏を含めてより多くのユーザーに利用して欲しいと言う希望を優先して、私の責任の下で進めて行く事にしました。

経営者として

株式会社キューブ・ソフト代表取締役の交代について で述べたように、2021 年 3 月 1 日付で、私が株式会社キューブ・ソフトの代表取締役に就任しました。また、これと併せて弊社の全株式を私が取得した事で、同日以降、私の単独意思決定による経営が続いています。

私はそれまで Cube シリーズを始めとする Windows ソフトウェアの開発責任者と言う位置づけでしたが、2019 年半ばからは経営、もっと具体的に言うと弊社の収益に関わる課題を解決する立場となりました。さらに、2020 年に入った辺りからは実質的に単独で弊社の再建を行う形となり、最終的に前述したタイミングで名実ともに私の会社として再スタートしました。本格的に経営に関わるようになった 2019 年時点では予断を許さない状態でしたが、幸いにも私に会社を潰さない程度の能力はあったようで、明るい展望を見出せる状態で存続する事に成功しています。

有償版パッケージの本格的な提供開始

Cube シリーズ概要

2018 年 6 月 21 日よりカスタマイズ版 CubePDF と言う位置づけで CubeVP を、2020 年 12 月 23 日より Cube シリーズ有償版インストーラーの提供をそれぞれ開始しました。

これらは、広告収益に頼るこれまで形とは異なるビジネスモデルとして、弊社の大きな挑戦と位置付けています。マーケティング等に関する知識が何一つない自分がいきなりこのような事業を始めて上手くいくのか半信半疑でしたが、有難い事に 1 年で合計 20 件程度の成約 を頂けました。ご成約頂けた企業は、事業内容も事業規模も本当に様々で、Cube シリーズが幅広いユーザーにご利用頂いている事を実感できる瞬間でもありました。

有償でソフトウェアを提供するに当たって、最大の不安事項はサポートでした。弊社の有償版パッケージは、無償で公開しているソフトウェアに対してプラスアルファの価値を付与して提供しているものです。そのため、もちろん一般の問い合わせに比べて返信速度が速かったりするなど多少の優位性はありますが、基本的には 無償版で直せていないものを個別に修正する事はできない と言う限界があります。この限界が受け入れられるのかと言う不安を抱えながらのスタートでしたが、有難い事に現在まで大きなトラブルもなく、全ての事例で非常にスムーズに進んでいます。

今後も、開発リソースはそのほとんどを無償版に注いで完成度を高め、有償版を検討中のユーザーには無償版で十分に品質を確認して頂く事で、両者にとってより良い選択になれるよう改善を続けていきたいと思います。

広告およびバンドルについて

Cube シリーズのバンドルポリシー

弊社は、Web サイトに表示している広告や、無償で提供している Windows ソフトウェアのインストール時に付属する所謂 バンドル と呼ばれるソフトウェアを通じて、直接的、あるいは間接的に収益を生んでいます。そして、私に経営権が移って最初に抱いた妄想は 広告をなくしたい でした。

この妄想は、数ヶ月の活動を通じて、そんな事は不可能だと悟るに至りました。経営者と言う立場となった当初の私は、金銭が絡む事を完全に舐めていたと言うしかないと痛感させられた瞬間でした。

経営者としての最初のミッションを失敗し、弊社の事業収益の柱は(少なくとも当面は)広告しかないと言う結論に至った私が次に決断した事は オプトインの徹底とポリシーの明記 でした。

2019 年の振り返り でも記載しましたが、それまでの私は、広告やバンドルの話題については(自分の管轄外として)可能な限り触れないようにしていました。しかし、現在はもう、これらの事を説明する人間が私以外にいません。そのため、説明を受けた側が納得するかは別として、少なくとも自分自身がはっきりと説明できる体制を整える必要がありました。

上記のポリシーは、所謂バンドルウェアと言うビジネスモデルを採用している中であれば、かなりクリーンな側と言う自負はあります。ただ、それはあくまで提供側の言い分に過ぎず、共感、賛同してくれるユーザーばかりではないと言う現実も認識しています。廃止と言う選択肢を選べなかった以上は、可能な限り説明責任を果たすとともに、収益とブランドイメージの兼ね合いを考えながら、今後もより良い選択肢を模索し続けていきたいと思います。

GitHub Sponsors を通じたスポンサー事業

GitHub Sponsors

前述したように、弊社は広告収益を柱とするビジネスモデルの継続を決断しました。一方で、その選択をしたくないソフトウェア開発者も多数存在しており、その多くは収入源の確保のために開発に 100% 注力できない状態となっています。近年、その状況を改善するかもしれない Web サービスとして GitHub Sponsors が登場し、弊社もスポンサー側として参加しています。

記事中で少し恨み言を記載しましたが、金銭が絡む問題は、残念ながら綺麗ごとだけでは進みません。そのため、こう言った活動が普及するかどうかは、スポンサーとなる側に広告宣伝費を費やす価値が多少なりともある事を示すのも重要に感じます。その意味で、そう言ったメリットを享受できた際にはできるだけ記事として残すよう心掛けたいと思います。

弊社が GitHub Sponsors を通じて投じている金額は本当に微々たるもので、これだけで何かが改善する訳ではありません。ただ、零細企業の数少ない強みとして、私が決断しさえすれば、即座に行動に移せると言う身軽さがあります。今後も、この強みを生かして、いろいろな取り組みを試していきたいと思います。

父親として

最後に、私的な話ですが 2019 年 12 月より父親となりました。もうすぐ子供が産まれると言うタイミングで前述したような大きな変革があったため、内心ハラハラドキドキしていたのですが、何とか全てを収める事ができてホッとしています。

育児に関しては、やはりワークライフバランスの難しさが挙げられるでしょうか。共働きなので、息子は普段、保育園に通わせてもらっていますが、風邪を引いたりして通えなくなる日が月に 1 回(数日)くらいの頻度で出てきます。私は名実ともに裁量労働制なので、こう言った突発的な保育はできるだけ私の方で受け持つようにしていますが、1 週間くらい連続してお休みになる時もあり、その間はいろいろと苦慮する事になります。ただ、自分が実際に子育てを経験しながら「突発的に数日くらい休んでも回るような組織作りをするには、どうしたら良いのだろうか?」のような事を考える事もよくあり、そう言ったきっかけを得られた事は良かったのかもしれません。

驚いた事としては、連絡帳を通じて保育士さんとやり取りをしている限り、1 歳になるかならないかの段階で既に、自宅と保育園での振る舞いが驚くほど違うと言うものがありました。自宅ではわがままを言ったり泣き喚いたりする事も多々ありますが、保育園ではそう言った振る舞いを見せる事はほとんどなく、非常に良い子として過ごしているようです。3 歳くらいの子供がそう言った振る舞いをする事は Web 等で見かけた事はありましたが、ゼロ歳にして既にそう言う社会性のようなものがある事にはビックリしました。

極度に寂しい思いを抱いていないかどうかには注意しつつ、様々な所で学んでいけるように、可能な範囲でサポートしてあげられればと思います。