実名匿名論争の「実名」「匿名」とは何か?

http://d.hatena.ne.jp/kitakyudai/20091104/p1 より.

実名匿名論争の際に議論が噛み合わなくなる原因の一つとして,発言している各人の「実名」「匿名」の認識に差異があるためと言うものがあります.私が見ている限りでは,「実名」「匿名」は大体次の3通りの意味で使われているように思います.

  1. 本名(戸籍に登録されている氏名)のみが「実名」であり,それ以外は全て「匿名」
  2. インターネット上以外で使用している名前を(インターネット上でも)使用している場合が「実名」,それ以外は「匿名」
  3. ハンドル,何らかのサービスの ID などを含め,個人を識別できる名前を使用している場合が「実名」,それ以外は「匿名」

実際には,これらのうち 1. の意味で使用される場合は少なく,多くの場合は 2. と 3. の意味で用いられています.わざわざ 2. を設けたのは,ハンドルや各 ID を「匿名」と見なしている場合においても芸能人の芸名や作家,漫画家などのペンネームは「実名」と見なしている事が多いように感じたためです.

「匿名」という言葉には細かくいえば2つの意味があり、Unlinkablityを満たさないと「匿名」といわない場合と、Unlinkablityを満たさなくても「匿名」という場合がある。

Unlinkablityを満たす場合の「匿名性」と区別するため、Unlinkablityを満たさない場合の「匿名性」をPseudonymityということがある。

匿名 - Wikipedia

特に何の断りもなく「匿名」と言った場合には,前述した 1. の本名(戸籍に登録されている名前)以外の名前全てを指す(べき),と言うのは正しいように思います.ただ,「匿名(匿名性)」にも段階が存在し,上記のように Pseudonymity は「匿名」とは異なると考える人も数多く存在します(私自身もそちら側の認識).

上記では「匿名牲」を "Unlinkability", "Pseudonymity" と言う 2 つの言葉で分類していますが,実名匿名論争においても,「仮名」と言う概念を導入してこれと同様の区別を行おうとする動きがしばしば見られます.個人的にも,「実名」「匿名」に「仮名」を加え,それぞれの言葉の意味を下記のように定義すると良いのではと感じます.

  • 実名 ..... 本名.戸籍に登録されている名前のみを指す.
  • 仮名 ..... 「実名」ではないが各人が一貫して使用している名前.例えば,芸能人の芸名,作家のペンネームなど.インターネット上で使用されるハンドル,各サービスの ID もこれに含まれる.
  • 匿名 ..... 上記のどちらにも当てはまらないもの.

実際には,「芸能人の芸名などとインターネット上で使用されるハンドルなどは異なる」と言う主張は根強いので,「仮名」はさらに 2 分割されるべきかもしれません.

例えば、最近の中教審答申では、「個性」や「ゆとり」といった言葉が多用される。ところがそれぞれの言葉は、使われる文脈によって、微妙にその意味・内容を変えている。個性の場合、ある箇所では、一人ひとりの性格を示すかと思えば、別の箇所では、特定の知的能力を示している。このように多義的に使われる結果、読み手は、それぞれに別の意味を与えて、いわば勝手に解釈してしまうことになる。

こういう場合、私は「禁止語のすすめ」を提唱している。あいまいで多義的なキーワードに出合ったら、その言葉を使わず別の表現に言い換えてみるのである。「個性」や「ゆとり」に出合うたびに、それをどのような言葉で置き換えたらいいかを考える。そうしたちょっとした努力だけでも、「なんとなくわかったつもり」にさせる言葉の魔力から逃れられる。自分がその言葉を使う時にも、別の言葉で言い換えてみる。こうやって、多義的であいまいな教育用語を、次々と言い換えていくと、普段私たちが教育を語る際に、どれだけ「わかったつもり」の議論をしているかが明白になる。

シリーズ(6)多義語的な言葉に出合ったら…「禁止語」のすすめ - Child Research Net Library 教育 Today

多義語的な言葉だけではなく「明白である」と思われるような単語においてさえも,実際に使用してみると各人の認識に微妙なズレがあると気付かされる場合に多々遭遇します.したがって,何らかの議論を行う場合,その議論においてキーワードになり得るような言葉くらいに関しては,まず始めに「別の言葉で言い換えてみる」と言う手順を踏むと各人の認識のずれが解消されて良いのではないかな,と思います.