「ガラケー」を知らない大人たち - いつか電池がきれるまで を読んで。この記事の本筋からは逸れるのですが、ここ 1 年位の Web 上で公開されているモバイル関連の記事を見ていると、「ガラケー」と言う単語(の使われ方)が非常に興味深いと思うようになりました。
Web 上で様々な文章を見るようになって、ここで紹介されている「情弱」、「池沼」以外にも、数多くの蔑称(と思われる言葉)を目にしてきました。「DQN」、「ニート」、「ゆとり」、「スイーツ(笑)」、「ガラパゴス」、「老害」、「マスゴミ」、……。これらの単語は、最初から蔑称として登場したものもあれば、元々は別の問題提起のために使用されていた単語が蔑称として使われるようになったものも存在します。
こういった類の言葉は、いったん蔑称として使われ始めると、当初の問題提起などに込められていた意味が著しく薄れてしまうと言う特徴があります。例えば、現在において「ゆとり」、「スイーツ(笑)」、「ガラパゴス」と言う言葉が使われる場面は多くの場合、自分が嘲笑し馬鹿にしたい対象が「年下っぽく見えるか」、「女性っぽく見えるか」、「日本製品(日本企業)か」の違いしかなく、主張の内容自体は「お前は馬鹿だ」程度の意味しか含まれていません。
そして「馬鹿」と言う意味だけが残った - Life like a clown
「ガラパゴス携帯(ガラケー)」と言う単語も、当初*1は、日本の従来型携帯電話(フィーチャーフォン)に対して「孤立した環境(日本市場)で「最適化」が著しく進行すると、エリア外との互換性を失い孤立して取り残されるだけでなく、外部(外国)から適応性(汎用性)と生存能力(低価格)の高い種(製品・技術)が導入されると最終的に淘汰される危険に陥る(参考:ガラパゴス化 - Wikipedia)」と言う問題提起を行うためのものだったのですが、iPhone や Android 等のスマートフォンが普及していくにつれて2ちゃんねるや Twitter 辺りを中心に、従来型の携帯電話やそのユーザを嘲笑し馬鹿にするための蔑称としての性質が色濃くなっていきました。
ここまでならよくある話なのですが、ここ 1 年位を見ていると、さらに変化してもはや蔑称としての性質もほとんどなくなり、単純にスマートフォンと区別するためだけに使用されていると思われるケースがかなり目立ってきました。以下に、google:ガラケー と言う単語で検索して特徴的だと感じたものを 3 点ほど列挙してみます。
1 点目は、去年の下半期頃からよく見るようになってきた「ガラケーの復活」的な記事です。この類の記事は、論調としては「ガラケー」に対してポジティブなのですが、それでも、扱いとしてはまだ「ガラケー」に対するネガティブさが残っているように感じます(ダメな子だと思ってたんだけどダメな子じゃなかった的な扱い)。
2 点目は単語からネガティブさがほとんどなくなった事例で、記事の大半の部分において「単純にスマートフォンと区別する」と言う目的で「ガラケー」と言う単語が使用されています。
3 点目は 2ch まとめブログでありがちな記事で、タイトルからは明確に「ガラケー」と言う単語に対して嘲笑する意図が見て取れます。しかし、実際にまとめられた内容を見てみると、レス自体には「ガラケー」と言う単語に対して嘲笑・侮蔑と言った意図はかなり薄れ、スマートフォンと区別するためだけに使用されていると思われるレスも数多く見受けられます。
「蔑称」から単なる「識別子」への変化
このような現象が発生した理由の一つとして、「ガラケー」と言う単語が「日本の従来型携帯電話」を指し示す言葉として最もコンパクトにまとまっており、都合が良かったと言う面があると思われます。
多くのひとがフィーチャーフォンを使っていれば携帯電話といえば二つ折りパカパカのことで、スマートフォンのほうを「スマホ」と特別扱いすればよかったわけで、逆に「ガラケー」って言われ始めたっていうことはスマートフォンがふつうで「スマートじゃない携帯電話」のほうが特別扱いになってきたから指し示す用語が必要になっているということ
ガラケーという言葉について - in between days
iPhone や Android 等の携帯端末には、初期の頃から「スマートフォン(スマホ)」と言う「識別子(カテゴリー)」が存在していましたが、比較対象となる従来型の携帯電話には(少なくとも日本には)対応するような「識別子」が存在、あるいは認知されていませんでした。「携帯電話(ケータイ)」と言う単語だと「スマートフォン」も含むと誤解されそうだし、「従来型の携帯電話」だと長ったらしいし、「フィーチャーフォン」と言う単語は日本ではあまり認知されていないし……。
そう言った状況の中で「スマホ」に対応する「識別子」を何にするか考えたとき、ネガティブな意味合いで使われる事が多いが、指し示す範囲の狭さや略称の短さ等を勘案すると「ガラケー」と言う単語が最も適当で使いやすいと言う結論になったのだろうと推測されます。
最初の記事を見る限り「ガラケー」と言う単語も認知されているのはごく一部(主に Web 上か?)と言う状況のようで、今後「ガラケー」と言う単語が「スマホ」に対応する「識別子」として多くの人に普及していくかどうかは、まだまだ何とも言えないところではあります。ただ、場合によっては「蔑称」であっても(侮蔑の意味がなくなり)単なる「識別子」へと変化し得ると言うのは、なかなか興味深い事例だなと思いました。
*1:初出の頃は、問題提起でもなくポジティブな意味で使用されていたと言う指摘もあります(参考:ガラケー - 閾ペディアことのは)。