インターネットの移行問題

私はもうネットワーク分野から離れて久しいので的外れな可能性も高いですが・・・雑感として.

90%の国民がブロードバンドを利用可能なのに30%しか利用していないという課題と、残りの10%にブロードバンドを整備する課題とを比較すれば、前者のほうが経済社会的なインパクトは明らかに大きい。

もうアバウトな議論は止めにしよう - 山田肇 – アゴラ

何らかのインターネット上で使う技術(まったく新しいもの,または既存の技術の改善)を提案したり聞いたりする際に,よく聞かれる質問の一つに「deployment(移行問題,運用問題)はどうするの?」と言うものがありました.

よく言われる事ですが,インターネットは必ずしも最適な形で運用されている訳ではありません.例えば,昨今の動画配信の盛り上がりを考えるとIPマルチキャスト*1 などの機構はあった方が良いし,QoS 的な機能(データ転送速度の保証*2 や差別化*3など)もあった方が良い,みたいな話は昔から数多く挙がっていました.にも関わらず,こうした「あった方が良い技術」が必ずしもデファクト・スタンダードとしての地位を獲得する事ができなかったのは,移行問題(インターネットに適用させようとすると莫大なコストがかかる)が大きく圧し掛かっていたと言う理由があります.そのため,これまでのインターネットの性能を改善する(現実的な)提案では,「現在のインターネットの枠組みを変えずに実現できる技術」に焦点が当てられる事がほとんどでした.

さて.話が少しずれますが,インターネットは,今,非常に大きな変革期にあります.IPv4 アドレスの枯渇問題*4 がかなり差し迫った問題となり,IPv6 への移行が「現実的な問題」として認識されつつあるようです.

こんなことを書くと某方々に怒られてしまいそうですが、私はIPv6は普及せずにIPv4のままの世界が続くだろうと、数年前まで考えていました。たとえば、森首相が所信演説でIPv6に関して発言したときには、IPv6が広く一般に普及するという世界が来ることに対してかなり懐疑的でした。・・・(中略)・・・

しかし、最近の感想としては、恐らくIPv6化は粛々と進むだろうと考えるようになりました。ユーザにニーズが無くても、インフラ提供者側の都合でインフラは変化していくものだと、最近は思います

「IPv4アドレス売買」とIPv6への移行:Geekなぺーじ

私のネットワーク分野への認識は何年も昔に止まってしまっているので私自身は今でも「IPv6 になど移行する訳ない」のような認識を持っていたのですが,第一線で活動している人達の認識だと「IPv6 への移行」はすでに現実的なシナリオとして受け入れられつつあるようです.IPv6 への移行が実現されれば,NCP から TCP/IP への移行*5以来の大事件でしょうか(あの時みたいに,ある日を境に全て切り替えてしまうなんて事は不可能ですが).

始めの話題に戻します.今,インターネットは大きな変革期に差しかかろうとしています.インターネットと言うのは,規模が大きすぎる事もあってなかなか大きな移行が起こらないのですが,IPv4 アドレス枯渇と言う差し迫った問題への解決のために移行せざるを得ない状況になっています.すなわち,「今」は何か大きな移行を(IPv6 への移行といっしょに)行う最大のチャンスと見ることができます.

私の「光の道」構想への認識が曖昧なのではっきりとは言えないのですが(光ルータ導入など全ての経路を光化?),もし今から数年のうちに「光の道」への現実的なシナリオを提示できれば「移行問題」に関して非常に大きなアドバンテージを得ることができます(すなわち,IPv6 への移行の際に同時に移行してもらう).逆に,IPv6 の移行期へ間に合わなかったとしたら,これまでのように「移行問題」がまた大きく付きまとうことになります.この意味で,「今」でなければならない,「今」を逃せば二度と不可能になるかもしれない(二度と不可能は言いすぎですが)のような事情はあるのかもなぁと感じました.

今のネットワーク(インターネット)と言うのは非常に特殊な状況に置かれています.そのため,単純に「経済的な損得」だけでは議論できない状況でもあります.そう言った事も踏まえて,いろいろ眺めると良いのかなと思いました.