虚構新聞問題と言うタイトルにしようかと思いましたが、別の事例も書きそうだったので。いろいろ読んでいて「もういいかな」と言う気もし始めたのですが、自分の中での整理も含めて記述します。
今回の事例を見ていて、個人的には以下の 3 点くらいに大別できるかなと感じました。
ちなみに、私個人の感想としては「サイトの構造は現状でも問題ないが、実在する人物の名前や写真をそのまま使用する事には問題があるのではないか」と言うものです。
ジョークサイトと言う存在自体に関する是非
ジョークサイトと言うか、Web 上でジョークを言う事自体に関する是非も度々問題になります。私の記憶にある事例だと、月極定礎ホールディングス ネタや DHMO ネタ辺りが、騙された人達によって問題視された事がありました。また、嘘と知っていると見る気になれない嘘と、嘘と知りつつ見てみたい嘘と - 法華狼の日記 によると、「青森ねぶた祭りを韓国が真似したというウソ」も想定外の方まで拡散して問題になったようです。
そして同時に、よくできた風刺や、似顔絵を使った政治漫画でも批判されることを思えば、現状で批判が出ないわけがないとも思う。表現の自由は、全ての批判をかわせるような魔法の言葉ではない。
嘘と知っていると見る気になれない嘘と、嘘と知りつつ見てみたい嘘と - 法華狼の日記
風刺に関しても、Wikipedia でいくつか問題視された海外事例が掲載されています。
いくつかの風刺作品での誇張表現は、大勢の人々に信じ込まれてしまう程に巧妙である。これらの作品における風刺の性質は、公には理解されないのかもしれない。その結果として、風刺作品の作家や制作者が激しい非難に晒された実例も存在する。2001年にイギリスのテレビ放送局チャンネル4は、児童性的虐待と小児性愛問題に翻弄される現代ジャーナリズムを揶揄し風刺する意図の、パロディ時事問題シリーズ『Brass Eye』の特別番組を放映した。ユーモアの主題にするには「重大すぎる」と多くの人間から考えられている問題を、この番組が揶揄したことに激怒した視聴者から、放送局へ莫大な数の苦情が寄せられた。架空の馬鹿げたハードロック・バンドのドキュメンタリーであるパロディ映画『This is Spinal Tap』は、何人かの批評家からノンフィクションと間違えられた。
風刺 - Wikipedia
その意味では、「虚構新聞」と言う Web サイト自体に関する批判が噴出するのも必然であるとは言えます。この辺りはどうしようもない部分もあるので、まぁジョークサイトの運営者がうまく折り合いを付けていくしかないかなと言う気がします。
ジョークサイトの(表示)構造に関する是非
今回の事例で主に争点として挙げられていた項目の一つ(「虚構新聞」と言うサイト名をヘッダ・タイトルに入れろと言うもの)になります。個人的には、この点に関しては、いくつかの点で(第三者が要求する事については)否定的でした。
一点目は、URL やサイトデザイン等の構造からの印象になりますが、虚構新聞はやはり「騙すことを主眼に置いたサイト」であると言う事です。
虚構新聞は「嘘ネタ」とわかった時点でコンテンツ終了で、ボーガスニュースは「嘘ネタ」とわかってからがネタ本番。だから前者はネタそのものは面白くなくていいし、逆に騙せないと成り立たない。オチは「嘘サイト」という事実そのもの。逆にボーガスは読者が「これはネタ」と理解してないと面白くない
記事によってはジョーク云々関係なく面白いと言う記事もありますが、全体の傾向としては「騙された!」と言うオチを楽しむ記事の方が多いように思います*1。そのため、最初からネタばらしをしてしまうと価値が半減します。
二点目は、「ヘッダ・タイトルにサイト名を入れる」と言う解決方法は、「虚構新聞」のような直球なサイト名にしか効果がないと言う点です。「bogusnews」にしても「アンサイクロペディア」にしても、それがジョークサイトと言う事が一瞥して分かるためには英単語等それなりの知識を要求されます。また、虚構新聞はトップページのヘッダ・タイトルに「Kyoko Shimbun News」と言うものを漢字と併用していますが、こちらをヘッダ・タイトルとして使用した場合「京都新聞ニュースと間違えた!」と言う事例が発生するのは容易に想像できます。
三点目として、これは個人の主観ですが、それぞれに存在する問題点の責任を全てサイト運営者に押し付けているような気がしたと言うものがあります。短縮 URL の問題点や、情報が拡散しやすい Twitter 上の構造的な問題点など、この類の事例は様々なシステム・ユーザに少しずつ責任があります。確かに、ヘッダ・タイトルにサイト名を付ける事によってある程度の拡散被害は免れるでしょうが、後発で登場した(問題のある)システムのために、これまでに運営してきたサイトのポリシーを曲げる事を強要するような論調には、個人的には否定的です。
以上のような理由で、解決方法としては別の方法を模索した方が良いと言う感想を抱きました。
ジョークサイトで扱っている記事内容に関する是非
今回の事例のもう一つの争点。この点については、運営者本人から釈明記事が上がっていました。
しばしば実名使用についても批判されるけど、「橋下市長は公人なので問題ない」という方針です。あと企業名については、万が一、株価に影響を及ぼすようなことがあってはならないので、本当の意味で風説の流布に該当するような記事は載せません。(2012/5/15(火))
メインページ(楠木坂コーヒーハウス)
また、先に引用した 嘘と知っていると見る気になれない嘘と、嘘と知りつつ見てみたい嘘と - 法華狼の日記 でも、この方針を(一部)擁護する記述がありました。
私個人は、虚構とは明記しており、矛先が政治家のような公人に向けられている限り、現状でも許容されるべきだと思う。実名や顔写真を用いるとなると、議論がわかれるだろうとは思うし、より題材の慎重なあつかいが求められるとは思うが。
嘘と知っていると見る気になれない嘘と、嘘と知りつつ見てみたい嘘と - 法華狼の日記
個人的な感想としては、これらの記事を読んだ後でも、やはり実名や顔写真をそのまま使用するのは公人であっても問題があるのではないかなと言うものです。騙すことを主眼に置きつつ、これらの問題をクリアしようとするにはどうすれば良いのかと問われるとぱっとは思いつかないのですが、実在する人物・団体等を扱う場合にはかなり慎重な扱いが求められます。この点については、今回問題となった記事では不十分だったのだろうと思いました。
*1:そう受け取られる事が、運営者にとって本位なのかどうかは分かりませんが。