大きなドシンとした古電子レンジ 〜昔の家電は丈夫で壊れにくい〜

おじいさんの電子レンジ。40 年いつも動いている、ご自慢の電子レンジさ。

大きなドシンとした古レンジ

上記の画像は、私の実家にある電子レンジです。私の生まれるかなり前からあるそうなので、もう 40 年近くずっと稼働している事になります。40 年休まずにチンチンチンチン……この前、実家に帰って彼*1の近況を聞いたところ、動いてはいるんだけど内側のランプがついに点かなくなったとの事で、そろそろ危ないのかもなぁと心配しています。動かなくなってしまう日の事を考えると非常に寂しくなるくらい愛着の湧いてしまった、我が家の電子レンジです。

いつか書こうと思っていた電子レンジの話を思い出したきっかけは、焦って新たな価値を足し続けてるからみんな路頭に迷ってる - kanackyの日記 と言う記事でした。全てがそうと言う訳ではありませんが、家電製品に関しては個人的にも「最近のものはいろいろな機能が付いているが脆くてすぐに壊れる。昔のものはシンプルだったが丈夫で壊れにくかった」みたいな印象は強いですし、似たような事を言っている記事もぽつぽつ見かけたりします。

何故そうなったのか?

理由については本当にたくさんあるとは思いますが、今回は、理由として思いついた以下の 3 点について、何か書いてみようと思います。

  1. 企業がやってられなくなった(儲からなくなった)
  2. 多機能化の魔力
  3. 危険な壊れ方をする前に安全に壊れてもらう

企業がやってられなくなった

最初の理由としては、単純に「それじゃあ、売る側(企業)としては儲からなくてやってられない」と言う話なのかなと思います。実際、非常に優れた電子レンジのおかげで実家では 40 年近くもの間 1 度も電子レンジを買い替えていない訳で、売る側としては商売あがったりです。こう言った状況を回避するために、かつて「ソニータイマー」と言う悪評が有名になりましたが、ある程度使用したら壊れる程度の耐久性にしておく(その代わり安価にする)か、あるいは携帯電話やスマートフォンのように付加価値(≒多機能)のある新製品を毎年発表して買い替えを煽るみたいな戦略を迫られているのだろうと推測されます。

別の観点としては、「ある要求を満たす製品、サービス」を売買する場合、売る側と買う側との値段感覚には相当のズレがあると言う事もあり得そうです。

こういうゲームだったら納得して金払うと言われても、そんな金額でそんなゲームは作れない。

今日のふんにょり 島国大和のド畜生

これは完全に外野から見聞きしたレベルの話なので信憑性は乏しいですが、上記のようなゲーム業界に限らず、「○○ のような機能を満たすものを作ってくれたら ×× 円払ってもいい」と言う消費者の要望と、実際に「○○ のような機能」を満たすものを作った場合に想定される金額との間には、下手をすると 1 桁位の差があるみたいな事をぽつぽつ聞いたりします。ここで値段の方を上げてしまうと採算の取れるレベルまで売れる事を期待する事は厳しいので、結局のところ製品、サービスの方に対して何らかの妥協をするか、あるいは消費者にとってウザい存在である「広告」で賄う等の戦略を取る事になります。

多機能化の魔力

二つ目の理由としては、結局、多数の人は「多機能化」を望んでいると言う事なのだろうと思います。

私たちが iPod 出現当初に待ち望んでいたものこそ、他ならぬ「'touch' の取れたiPod touch」だったのではないかなと思います。当時のデカくてゴチャゴチャした音楽再生機に辟易していたところに颯爽と現れたシンプルな iPod。もちろん、あれ程の大ヒットの裏には他にも様々な要因があったでしょうが、その要因の一つに「シンプルさ」は間違いなくあっただろうと思います。

人は何故「多機能化」の魔力に勝てないのか - Life like a clown

コメントでも少し書きましたが、私は、iPod が登場した時にあのシンプルさに非常に感銘を受けました。なので、その後 iPod touch なる製品が登場した際には正直失望しましたし、その進化系にも見える iPhone が発売され、そしてそれが世の中で絶賛され受け入れられていく様を見た時には「それが世界の選択か…」と寂しそうに呟きたい気分になったりもしました。

人の欲求は留まる事を知りません。いったん望んだものを手に入れたら、すぐに「次はあれも欲しい」と言う欲求が現れます。

あれも欲しい これも欲しい
もっと欲しい もっともっと欲しい
あれもしたい これもしたい
もっとしたい もっともっとしたい

夢 - THE BLUE HEARTS

多機能化には、それ(多機能化と言うこと)自身にデメリットが含まれています。例えば、機能数に比例して操作はどんどん複雑化していきます。「そんなの誰が読むんだ?」と感じる辞書のようなリファレンスに目を通さないと全ての機能を使いこなすことは難しくなくなります。また、携帯機にはバッテリーの問題も存在します。多機能化するにつれて、どうしてもバッテリーの持ちは悪くなります。

しかし、少なくとも「望んでいる間」は、そう言った種々の問題点までは頭が回らないものです。そう言った問題点に気がつくのは、皮肉にも多くの場合「あれほど望んでいたものが実現して手に入れた瞬間」となります。

市場競争原理は、製品の改良を加速する方向に働くため、ある時点までは消費者にとってメリットがあります。しかし、ニーズの臨界点を超えて多機能競争が繰り返されるため、ついには消費者無視の多機能のお化けと化してしまい、消費者からそっぽを向かれる商品に成り果てることが多いと思います。

http://www.dw-sapporo.co.jp/30ed/blog/30a430ce30fc30b730e730f3306e30ec30f330de3068

イノベーションのジレンマと言う言葉にも通じますが、世の中の製品は「何でもできるものが欲しい」と言う欲求と「こんなはずじゃなかった」と言う後悔の連続で回っています。

人は何故「多機能化」の魔力に勝てないのか - Life like a clown

多機能のお化けが現れた際にシンプルなものに回帰すると言うタイミングも何度もあったように思いますが、それと同じだけかそれ以上に多機能化は繰り返されています。ある製品に対して、「何が必要で何がそうでないのか」をきちんと見分けられるのが理想なのですが、製造者も消費者も、それを実践するのはなかなか難しいようです。

危険な壊れ方をする前に安全に壊れてもらう

最後の理由は、ナショナルFF式石油暖房機 の事例を見て思った点です。

1985年(昭和60年)から1992年(平成4年)製のナショナルFF式石油温風機及び、石油フラットラジアントヒーターには事故に至る危険性があります。当該対象製品を未処置のままご使用になりますと、一酸化炭素(無臭)を含む排気ガスが室内に漏れ出し、死亡事故に至るおそれがあります。

リコール社告 引き続き、お客様へのお願いです ナショナルFF式石油暖房機を探しています。|アプライアンス社|Panasonic

長い間、壊れずに稼働してくれるのは良い事だとは思いますが、そうは言っても使用しているうちにどこかガタが来てしまいます。消費者は往々にして「動いているならまぁいいか」と言う使い方をしますので、場合によっては人命に関わる事故を引き起こすなど危険な存在となってしまう事も考えられます。

もちろん理想としては「そんな危険な事が起こらないようにずっと正常に稼働し続ける事」なのですが、作る側としても 10 年、20 年と使い続けた場合にどう言った事が起こるかについては、なかなか全てを見通すと言うのは至難の業だろうと思われます。なので、数年 〜 10 年で壊れる程度の耐久性で設計し、危険な事故が発生する前に安全に壊れてもらうのも戦略の一つとしてあるのかなぁと思ったりしました。

*1:電子レンジ